ひとり法人の「2つの共済」は帳簿の反対側に置く — 小規模企業共済は個人、経営セーフティ共済は法人
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法人を作って最初の決算が近づくと、「共済に入ると節税になる」という話がどこからともなく届きます。名前が挙がるのは2つ。小規模企業共済と、経営セーフティ共済(正式には中小企業倒産防止共済)です。
うちも2期目に入るときに両方を調べました。分かったのは、この2つは「どっちがお得か」で比べるものではなく、帳簿の反対側に置くものだということです。片方は役員個人の確定申告に、もう片方は法人の損益計算書に載ります。
先に結論の表
| 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 | |
|---|---|---|
| 加入する主体 | 役員「個人」(法人としては加入できない) | 法人または個人事業主(事業体) |
| 掛金が効く場所 | 個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除) | 法人は損金、個人事業主は必要経費 |
| 掛金の範囲 | 月1,000〜70,000円(500円単位) | 月5,000〜20万円、総額800万円まで |
| 性格 | 経営者の退職金の積立 | 取引先倒産に備える共済(借入の枠) |
| 元本を割らない目安 | 任意解約なら240か月(20年)以上 | 任意解約なら40か月以上で100% |
| 12か月未満の解約 | 掛け捨て | 不支給 |
ひとり法人の場合、小規模企業共済の掛金を払うのは役員個人(役員報酬から)で、法人の経費にはなりません。逆に経営セーフティ共済の掛金を払うのは法人で、役員個人の所得には関係しません。「法人の利益を減らしたい」なら経営セーフティ、「個人の所得税を減らしたい」なら小規模企業共済、と最初から分けて考えると迷いません。
小規模企業共済 — 役員が「個人として」入る退職金
中小機構のFAQは、法人として加入できるかという問いに「会社等として加入することはできません」と答えています。個人事業主、共同経営者、会社等の役員が個人として加入する制度です。
加入資格には業種別の従業員数の上限があります。商業(卸売・小売)・サービス業は常時使用する従業員が5人以下、建設業・製造業・運輸業・不動産業などは20人以下。ひとり法人は従業員ゼロなので、ここで引っかかることはまずありません。ただし商業登記簿に役員として登記されていない人は加入できません。合同会社なら業務執行社員として登記されていれば対象です。
掛金は月1,000円から70,000円まで500円単位で、加入後の増減もできます。この掛金が全額、役員個人の所得控除になります。
注意はここです。任意解約すると、掛金納付月数が240か月(20年)未満では掛金の合計額を下回ります。 12か月未満は掛け捨て、12〜83か月の支給率は80%。「とりあえず入って、キャッシュが苦しくなったら解約」をやると2割削られます。廃業や退任で受け取る共済金は別の計算になるので、「辞めるまで続ける前提の積立」として月額を決める制度です。
経営セーフティ共済 — 法人が入る「倒産に備える枠」
こちらは事業体(法人または個人事業主)が加入します。本来の目的は取引先が倒産したときの資金繰りで、掛金総額の10倍(上限8,000万円)まで無担保・無保証人で借りられる枠が本体です。
掛金は月5,000円から20万円まで、総額800万円になるまで積み立てられます。この掛金が法人なら損金、個人事業主なら必要経費になる。だから「利益が出た期に掛金を積んで利益を圧縮する」使い方で語られます。
解約手当金は、12か月未満は支給なし、12か月以上で掛金総額の8割以上、40か月以上で全額が戻ります。小規模企業共済の20年に比べると、元本を割らない線がかなり近い。
ただし2024年10月1日以降、ルールが1つ増えました。中小機構の解約ページの記載を引きます。
令和6年10月1日以降に共済契約を解約し、再度共済契約を締結(再加入)する場合、その解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金については、必要経費または損金の額に算入できません
つまり「40か月で解約して全額受け取り、すぐ再加入してまた損金にする」という回し方は、再加入後2年分の掛金が損金にならなくなりました。解約は「もう一度入る前提」ではなく、本当に手当金が要るときの一回きりとして設計するのが2024年10月以降の前提です。
もう一つ、戻ってきた掛金は受け取った側の収入になるはずなので、解約する期の利益との相殺を先に考える必要があります。この課税上の扱いと、加入資格(事業の継続期間や業種別の要件)は本記事では一次情報で確認できていないので、加入前に中小機構の加入資格ページと制度のしおりで確認してください。
ひとり法人での置き方
うちの整理はこうです。実額は書きませんが、判断の順番はそのまま使えます。
- 役員報酬をいくらにするかを先に決める。 小規模企業共済の掛金は個人の所得控除なので、役員報酬が小さいと控除の効き目も小さい。役員報酬と会計の記事で書いた「法人と個人の財布を分ける」話の延長です
- 法人側に利益が残りそうなら経営セーフティ共済を検討する。 ただし40か月は続けられる資金繰りか、借入枠を使う場面が想像できるかを先に見る
- どちらも「途中でやめると削られる」制度。 月額は「苦しい期でも払える額」にする。増減はできるが、減額で対応するほうが解約より傷が浅い
- 会計ソフトでは、小規模企業共済は法人の帳簿に出てこない(役員個人の年末調整・確定申告側)。経営セーフティ共済は法人の保険料・共済掛金の科目に載る。第1期決算で詰まった記事の「どこに載るか分からない支出」を減らす意味でも、最初に置き場を決めておく
まとめ
- 小規模企業共済は役員個人が入り、個人の所得控除。法人としては加入できない
- 経営セーフティ共済は法人が入り、掛金は損金。本体は掛金の10倍までの借入枠
- 元本を割らない線は、小規模企業共済が240か月、経営セーフティ共済が40か月
- 2024年10月以降、経営セーフティ共済は解約後2年間の再加入分の掛金が損金にならない
- 「どっちが得か」ではなく、法人の帳簿と個人の申告のどちらに載せたいかで決める
次に確認すること
- 自分が商業登記簿に役員として載っているか(小規模企業共済の入口)
- 経営セーフティ共済の加入資格ページで、事業の継続期間と業種の要件
- 解約手当金を受け取る期の課税の扱い(制度のしおり、または税理士)