ひとり法人は「役員1人でも」社会保険が強制 — 報酬ゼロのときだけ話が変わる
法人を作ると、しばらくして年金事務所から封筒が届きます。「事業所を設立したら社会保険に加入してください」という趣旨の案内です。ひとりで会社をやっているだけなのに、と思うかもしれませんが、これは任意ではありません。
うちも合同会社を作ったときに同じ封筒を受け取りました。1期目は役員報酬ゼロだったので、そこで話が少し変わりました。この記事はその線引きを、日本年金機構と厚生労働省の公表資料で整理したものです。
先に結論の表
| 健康保険・厚生年金 | 労働保険(労災・雇用) | |
|---|---|---|
| 法人で役員1人だけ | 強制適用(事業主のみの場合を含む) | 原則、成立しない(労働者がいない) |
| 役員報酬を払っている | 代表者も被保険者 | 役員は対象外(労災は特別加入制度あり) |
| 役員報酬ゼロ | 事実上の使用関係で判断。報酬がなければ資格取得は不要とされる例 | 同上 |
| 従業員を1人雇った | その人も被保険者(要件あり) | 成立する。10日以内に成立届 |
法人は従業員ゼロでも「強制適用事業所」
日本年金機構の説明は明確です。厚生年金保険の適用事業所となるのは「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)」。個人事業所は常時5人以上の従業員がいて初めて強制適用ですが、法人は人数の条件がありません。合同会社も法人なので同じです。
被保険者になるのは、適用事業所に常用的に使用される70歳未満の人。ここに法人の代表者・役員も入ります。年金機構の疑義照会回答が引く昭和24年の通知では、「役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者とする」とされています。
つまり、役員報酬を出した時点で、自分自身が被保険者です。役員報酬の記事で書いた月額を決める作業と、等級表の記事で書いた保険料が決まる作業は、この「被保険者になる」の上に乗っています。
手続きは設立から5日以内
新規適用届の提出期限は「事実発生から5日以内」。添付書類は法人(商業)登記簿謄本で、コピー不可、提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものです。提出先は事務センターまたは管轄の年金事務所で、電子申請・郵送・窓口のいずれでも出せます。
設立前後の順番の記事に「設立から3か月以内」の作業を並べましたが、この5日は別格に短い。登記が完了したら、謄本を取りに行くついでに新規適用届まで出す、と決めておくのが現実的です。
すでに別の法人で社会保険に入っている人が2社目を作った場合も、年金機構のQ&Aは「新しい法人でも新規適用届と資格取得届が必要」と答えています。2社で報酬を受けるなら二以上事業所勤務の届出を出し、報酬を合算して保険料を按分する扱いです。
報酬ゼロのときだけ、話が変わる
うちの1期目がこれでした。売上がほぼない状態で報酬を出す意味がなく、役員報酬ゼロで通した。
このとき被保険者になるのか。年金機構の疑義照会回答は、被保険者かどうかを「事実上の使用関係」で判断し、「就労の実態や報酬の有無等を確認し、事実上の使用関係が認められなければ、資格取得をする必要はない」という考え方を示しています。報酬がまったく出ていない役員は、この線で被保険者にならないと扱われるのが一般的です。その場合、本人は国民健康保険と国民年金のままです。
ただし、ここは断定できません。同じ回答集には、経営状況で報酬を下げる役員について「低報酬金額をもって資格喪失させることは妥当でない」「最低金額を設定し、それを下回れば資格がないとするのは妥当ではない」ともあります。つまり極端に低い報酬でも、払っている限りは被保険者になりうる。「月に数円」の照会に対しても、業務の内容に相応しいか疑わしい場合は報酬決定の段階で確認する、という趣旨の回答です。
| 状態 | 扱い(年金機構の回答集の考え方) |
|---|---|
| 報酬ゼロ | 事実上の使用関係が認められなければ資格取得は不要 |
| 低額だが払っている | 低額であることだけで資格なしとはしない。総合判断 |
| 社会通念上疑わしい額 | 報酬決定の段階で確認される |
「社会保険料を避けるために報酬を1万円にする」という話を見かけますが、この回答集を読む限り、低額にすれば外れるという仕組みではないことは押さえておくべきです。報酬ゼロにするかどうかは、個人事業主か法人かの記事で書いた社会保険の軸そのものなので、設立前に決める話です。
労働保険は「労働者を雇ったら」の話
労災保険と雇用保険をまとめて労働保険と呼びます。こちらは厚労省の説明のとおり「労働者を1人でも雇っている事業場は加入が義務」で、逆に言えば役員だけの法人には労働者がいないので、保険関係が成立しません。
事業主や会社役員は労災保険の対象になるかという厚労省のFAQへの答えは、労災保険の対象は労働者であって事業主は基本的に適用されない、というものです。代わりに特別加入制度があり、労働局の認可を受ければ労働者と同様に給付を受けられます。ひとり法人で現場作業がある業種なら、ここは検討の余地があります。
従業員を雇った日から保険関係は成立し、成立日から10日以内に保険関係成立届を労働基準監督署または公共職業安定所に出す必要があります。社会保険の5日、労働保険の10日、どちらも「雇ってから考える」では間に合わない日数です。
まとめ
- 法人は役員1人でも健康保険・厚生年金の強制適用。役員報酬を受ければ代表者本人が被保険者
- 新規適用届は事実発生から5日以内。添付は90日以内発行の登記簿謄本(原本)
- 報酬ゼロなら「事実上の使用関係」で判断され、被保険者にならない扱いが一般的。ただし低額なら外れる、という仕組みではない
- 労働保険は労働者を雇ったら成立。役員だけなら原則不要で、労災は特別加入で入る道がある
- 2社目の法人でも新規適用届と資格取得届が要る
次に確認すること
- 登記完了日から5日以内に新規適用届を出せる段取りになっているか(謄本の取得日を先に決める)
- 1期目の役員報酬をゼロにするなら、国保・国民年金の手続きと保険料を先に確認する
- 報酬ゼロや低額のときの扱いは個別判断なので、管轄の年金事務所に事前に確認する